そうそう、うん、これは大事。有元利夫さんの絵は、いつも、つい見入ってしまいます。「日記と素描」。普通の言葉で、大事なことが書いてあると思うのです。
『僕には歌があるはずだ。
それは大芸術ではないけれど、
本物だったはずだ。
気楽ではあったけれど、
不まじめではなかった。
小さな楽しみだったはずだ。
自分の身の廻りすべてから吸い取り、
あらゆる連想をはたらかせ、
自分の心の中へ入り込んでいけた。
いつのまにか
値段や画壇や社会が、
その気楽さにおどしをかけ
もっとチャンとやれチャンとやれと
はやしたて、
すっかりその気でチャンとやるつもりだった。
譜面どおりに正しい音程を正しい発音で
ベルカントでやったら、
民謡でなくなっていた。
そうすてたもんでもない民謡だったのに、
正しいなんとかたちにずいぶん邪魔されちまった。
物語をつむごう。
ささやかな出来事や
ささやかなキッカケを大事に大胆につむぐ。
これが明日からの仕事だ。』
有元利夫「日記と素描」新潮社 より